『橋の上の霜』平岩弓枝著の大田直次郎





世の中は われより先に用のある 人のあしあと橋の上の霜



 人の世の苦痛も、ほろ苦さも、俺一人ではなかったと思った。
 誰も彼も、それなりに霜を踏んで我が道を歩いて行く。
 そう思うことで虚しさが消えたわけではなかった。
 しかし、歩かねばならなかった。


 誰か知らない人の足あとの上を踏んで、直次郎は橋を渡って行った。
 風が、僅かに夜明けを感じさせている。
 まだ暗い中で、雀の声が聞えていた。

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人はだれでも辛い時があるものです。
何で自分ばっかり‥

周囲に何も目に入らず、
見えるのは足元だけ
心も体も冷え切って
世界にたった一人。

でも、人肌は見えずとも
冷たい霜は優しい

誰も彼も、それなりに霜を踏んで歩いて行く。


『世の中は われより先に用のある 人のあしあと橋の上の霜』