KT法PSDMコース■問題解決技法■ケプナー・トリゴー法

これはKT法についての簡潔だが重要な文書である。
1チーム5人。
有限な資源を、重要な問題に優先的に割り当てる
的はずれな深堀りをしない
そのためにはどうしたら良いか。
その解の一つがKT法(ケプナートリゴー法)である。
1.KT法全般について
(1)状況把握(状況分析)SA (Situation Appraisal)
(2)問題分析(原因究明)PA (Problem Analysis)
(3)決定分析(選択決定)DA (Decision Analysis)
(4)潜在的問題分析 PPA (Potential Problem Analysis)
2→3→4のすべてを1がサポートする

目的:陥りやすいくせを排除
先入観にとらわれてしまう。
過去の例にひきずられる。
インパクトの強い意見にひっぱられる。
問題の定義を明確にせず、すぐ議論に入る。
議論のピントがずれる。
的はずれの深堀りをしてしまう。
結論を急ぐあまり、対策や案にジャンプする。
自説に固執する。
議論をしていても、ガンとして譲らない。

方法:どれがより重要かを調べ、優先順位をつけて、的はずれの深堀りに気をつけながら、資源(人・物・金)を投入する。

まず『状況把握』を行い、行き先(『問題分析』『決定分析』『潜在的問題分析』)を見つけるのも手。

2.問題分析(原因究明)
問題分析(PA; Problem Analysis)は、基本的につぎの四つのプロセスで行います。
(1) どんなトラブルが何に起きているのか?
(2) うまくいっているものはあるのか、それと状況を比較するとどうか?
(3) どんな原因が考えられるのか?
(4) 状況をうまく説明できる原因はあるか?

(1) どんなトラブルが起きているのか?
まず、どんなトラブルが起きているのかを明確にします。「トラブル」というのは、「本来あるべき姿(SHOULD)」と「現実の姿(ACTUAL)」に差を生じた状態のことです。

これを、「〜(対象)に発生した〜(欠陥)の原因を究明する」という単純な文章で言い表すことができるでしょうか。
非常に簡単なことですが、この明確化が非常に重要です。また、現実の問題では、なかなか明確にならないことが多いのです。
これができなければ、「問題分析(PA)」の問題ではなくて、のちほど説明する予定の「状況把握(SA)」の問題です。

(2) うまくいっているものはあるのか、それと状況を比較するとどうか?
ここは、さらに次の三つの項目に細分されます。
(2.1) 情報の明確化
(2.2) 区別点の確認
(2.3) 変化の確認

(2.1) 情報の明確化
まず、「問題の起こっているもの(IS)」と、「問題が起こってもいいのに、起こっていないもの(IS NOT)」とを3W1Eで整理します。

3W1Eというのは、Wの一つめがWHATまたはWHO、二つめがWHERE、そして三つめがWHENです。EはEXTENTのことで、「どの程度か」ということです。Eのかわりに、HOWと考えてもいいですね。
つまり、5W1Hのなかの、WHYだけがない状態です。なぜWHYがないか。それは、「問題分析」そのものがWHYを見つけていくプロセスだからです。
この、IS と IS NOT の分類は、日頃の原因究明のときにも、知らず知らずのうちに行っていることです。

たとえば、部屋の灯かりが急に消えた。どうしますか?
まず、となりの部屋を確認します。となりの部屋も消えていた。窓を開けて、外を見てみる。周りの家も消えていた。「そうか。停電か」。と、これで安心して、停電が終わるまで待てるわけです。
知らず知らずのうちに、「どこに起こっていて」、「どこに起こってないか」を探し求めているわけですね。これを、まず、明示的にやってやろうというのが、「情報の明確化」です。

(2.2) 区別点の確認
ここでは、上で洗い出した「起こっているもの」と「起こってもいいのに、起こっていないもの」の間に、どんな区別点があるのかを明確化します。「起こっていないもの(IS NOT)と比べて、起きているもの(IS)にどんな特徴があるのか」ということです。
素朴な違いから原因が洗い出されることもあるので、両者の違いは、どんなことでも書き出しておくことが重要です。

(2.3) 変化の確認
さらに、その区別点になるような変化がいつ起こったのかということを記述します。
たとえば、区別点(起きている方の特徴)が「Aという部品を使っている」というものであれば、変化は「5週間前から、Aを新型に切り替えた」などというのが、ここに記述されます。

(3) どんな原因が考えられるのか?
さて、ここは頭を使わなければならないところです。(2)の作業で書き出された事実を見ながら、経験と勘で原因を想定していきます。

え? それでは今までと同じじゃないかって? そうなのです。「(3) どんな原因が考えられるのか?」というところは、今までと同じなのです。
ただし、(2) の各作業で書き出した事実によって(特に「IS NOT」をさぐることによって)、問題の領域が明確に限定されているとともに、不合理な情報が排除できています。これが大切なのです。
この(2)の作業があるために、先入観から解き放たれ、結論を急ぐあまり、的はずれの対策や案にジャンプすることを避けられます。
「変化」や「区別点」として記述された部分は、原因想定のための大きなヒントとなります。

(4) 状況をうまく説明できる原因はあるか?
さて、原因が想定できたら、その原因で本当に「起こったもの(IS)」、「起きそうなのに、起こっていないもの(IS NOT)」の違いが発生するかどうかを、3W1Eの各項目について見ていきます。うまく説明できれば○を、説明できなければ×を付けていくのです。

そして、複数の想定原因の中で、全部に○が付く原因が、この問題の原因ではないか、ということです。
全部に○が付く原因がない場合は、複数の原因の×の場所を補完しあうような複合原因を想定してみます。
こうして、すべてに○が付く原因が見つかるまで、作業を繰り返すのです。

問題分析の例
ある食品加工業者の工場では、トウモロコシと大豆から食用油を生産しています。ここには、濾過機で油をこす機械が5台設置されています。ある日、5台のうちの1号機の濾過機が油もれを起こし、床が油だらけになってしまいました。

さて、この問題を問題分析の手法で分析してみましょう。
(1) どんなトラブルが何に起きているのか?
まず、問題を明確な文章で言い表してみます。この場合、「1号濾過機の油もれの原因を究明する」というお題目になります。

では、このお題目をにらみながら、3W1Eで、現場のようすを調査してみましょう。
まずはWHATです。なにに起こったどんな問題でしょう。これは、お題目をそのままもってくればOKです。
対象: 1号濾過機
欠陥: 油もれ

次にWHEREです。どの場所で起こっているのでしょう。そして、機械の中ではどの部分で起こっているのでしょう。
場所: 濾過工場の北東のすみ
部分: 清掃用のハッチ

次はWHENです。いつ起こったのでしょう。そしてどんな場合(タイミング)に発生しているのでしょう。
いつ: 三日前の交替時間のはじめ
場合: その後、交替のたびにずっと

最後にEXTENTです。どの程度起こっているのでしょう。
程度: 交替時ごとに5〜10ガロンの油のもれ

(2) うまくいっているものはあるのか、それと状況を比較するとどうか?
つぎに、停電のときにまわりの部屋や、近所の家をみわたしてみるように、同じように起こってもよさそうなのに、起こっていないものを探します。

まず、WHATの部分です。
対象: 1号濾過機
欠陥: 油もれ

これが、(1) でしらべた現在の状況でした。では、「1号濾過機」に起こっているのであれば、起こってもいいはずなのに、実際は起こっていないものは何でしょうか。そうです。2〜5号濾過機です。
「油もれ」が起こっているのであれば、起こってもいいはずなのに、実際は起こっていないものは何でしょうか。この機械には、給水ポンプから冷却水が送られていますが、その「水もれ」は起こしていないようです。

これらの事象を、(1) で調べた各項目の横に併記していきます。

  「IS」 「IS NOT」
対象: 1号濾過機 2〜5号
欠陥: 油もれ 水もれ
場所: 北東のすみ 他の場所
部分: 清掃ハッチ バルブ、パイプ
日時: 三日前 三日前より前
場合: 交替のたび 機器の休止時
程度: 5〜10ガロン 10ガロン以上

では、「IS」と「IS NOT」の項目を比べて、「IS」の側の特徴はなんでしょう。これを記述していきます。

  「IS」 「IS NOT」 「区別点」
対象: 1号濾過機 2〜5号 北東すみに設置
欠陥: 油もれ 水もれ
場所: 北東のすみ 他の場所 給水ポンプの振動
部分: 清掃ハッチ 他の部分 交替ごとに開閉
日時: 三日前 三日前より前 三日前に月ごとの点検
場合: 交替のたび 機器の休止時 フィルター使用時
程度: 5〜10ガロン 10ガロン以上

では、この「区別点」に関して、問題の前後で変化があったのでしょうか。

  「IS」 「IS NOT」 「区別点」 「変化」
対象: 1号濾過機 2〜5号 北東すみに設置 場所は不変
欠陥: 油もれ 水もれ
場所: 北東のすみ 他の場所 給水ポンプの振動 振動は不変
部分: 清掃ハッチ 他の部分 交替ごとに開閉 作業は不変
日時: 三日前 三日前より前 三日前に月ごとの点検 1号のガスケット交換
場合: 交替のたび 機器の休止時 フィルター使用時 状況は不変
程度: 5〜10ガロン 10ガロン以上

(3) どんな原因が考えられるのか?
それでは、(2) で作成した表をにらみながら、原因を想定してみましょう。特に「区別点」や「変化」は、原因想定のための大きなヒントになります。

「変化」のところから思いつくのが、「三日前の月例点検時に交換した、1号濾過機のガスケットの不良による油もれ」という原因です。
さらに、「濾過工場の北東のすみに設置された給水ポンプの振動が、1号濾過機の油もれを引き起こした」ということも考えられます。
「三日前に点検した担当者が、清掃ハッチをきちんと閉めていない」ということも考えられます。

(4) 状況をうまく説明できる原因はあるか?

それでは、(3) で考えた原因は、(2) で洗い出した「IS」、「IS NOT」の違いをうまく説明できるでしょうか。

  「IS」 「IS NOT」 ガスケ 振動説 清掃ハッチ説
対象: 1号濾過機 2〜5号 ×
欠陥: 油もれ 水もれ ×
場所: 北東のすみ 他の場所
部分: 清掃ハッチ バルブ、パイプ
日時: 三日前 三日前より前 ×
場合: 交替のたび 機器の休止時 ×
程度: 5〜10ガロン 10ガロン以上 ×

この時には、各案をきびしくテストすることが必要です。
清掃ハッチ説も「1号濾過機のときだけ、たまたまうまく作業ができなかったのだろう」という仮説をたてれば○になるのですが、仮定についての粗雑さの度合いはだんだんひどくなります。

最後に、こうして得られた想定原因を裏づける必要があります。

今回の問題の場合は、1号濾過機のガスケットを交換して、漏れが出るかどうかを調べるという方法や、他の濾過機のガスケットと交換してみて、漏れが出るかどうかを調べるという方法などが考えられます。

3.決定分析(選択決定)
決定分析(DA; Decision Analysis)は、ある課題に対して、もっとも適合した案をつくり、選択する思考過程のことをいいます。決定分析は、つぎの四つのプロセスで行います。
(1) なんのために、なにを決めるのか?
(2) ねらいはなにか?
(3) ほかに案はないか?
(4) なにかまずいことはないか?

(1) なんのために、なにを決めるのか?
ここでは、「なんのために」という決定目的と、「なにを決めるか」という決定事項を明確にします。その結果は、たとえば、「市場シェアを拡大するために、最適な販促策を決定する」という文章になります。「市場シェアを拡大するため」というのが決定目的で、「最適な販促策を決定する」というのが決定事項です。

先に説明した、問題分析のときにも、原因究明すべき問題を「なにに発生した、なんの原因を究明する」という単純な文章で言い表しました。決定分析においても、「なんのために、なにを決める」ということを単純な文章で言い表すことが重要です。このように明確なお題目を掲げることで、思考の方向がぶれることを防げるからです。

KT社の調査では、大きな意思決定の失敗は7〜8割まで、この目的の不明瞭さがからんでいるそうです。必要なのは、まず、目的(決定目的)を明確にすることです。

(2) ねらいはなにか?
目的が決まれば、今度は目標を設定します。

目的が達成されたときの具体的な姿、数値化された指標が目標です。

たとえば「だれに、どんな機能を提供するのか」という商品コンセプトは「目的」を示していますが、「その機能のレベルをどの程度に設定するのか」などは「目標」になります。
「なんのために決めるのか」かという目的をにらみながら、その目的に対する「期待成果」と「制約条件」とから、複数の目標(ねらい)を決めていきます。「制約条件」というのは、人、物、金、時間などの投入できる資源のことです。「3万円以内でできること」とか、「2週間以内でできること」などが「制約条件」です。

これらの目標があげられれば、目標の分類、重みづけを行います。
目標の中で、絶対に実現しなければならないもの(絶対目標、MUST案件)はどれか、希望的なもの(希望目標、WANT案件)はどれかという分類を、まず行います。「絶対目標」はだれが競技に出るかを決め、「希望目標」はだれが勝つかを決めるために使われる、というたとえをしている人もいます。

次に、「希望目標」に重みづけを行います。まず、「希望目標」の中でも、一番大事だと思うものに、10点をつけます。それとの相対比較で、ほかの「希望目標」にも、1点から10点の重みをつけていきます。

このようにして、案を評価するための「ものさし」ができます。
実際にやってみるとわかると思いますが、この「目標を設定して、それに重みをつける過程」で、自分(達)がどういうものを望んでいるのか、ということが、ものすごくクリアになっていきます。非常に大切なステージです。

(3) ほかに案はないか?
ここは、経験と勘とで考えるステージです。設定された目標をにらみながら、それらを満足するような案づくりをしていきます。

このときに、この項目のタイトルにもありますように、「ほかに案はないか?」という質問を繰り返して、複数案を出していくことが大事です。それによって、先入観による思い込みの案にとどまってしまうことなどを避けられる可能性があるからです。

こうして、複数案が出てきたら、まず、「絶対目標(MUST)」をクリアしているかどうかを確認します。
「絶対目標」をクリアしている案について、「希望目標(WANT)」による評価を行っていきます。「希望目標」の1項目ごとに、その目標を(相対的に)もっとも満足している案に10点をつけます。そして、それに対して、ほかの案が相対的に何点になるのかを決めていきます。これを「希望目標」のすべてについて実施します。

さて、得点の集計です。各目標につけられている1〜10点の「重みの点」と、それに対して、各案につけられた1〜10点の「評価点」とを掛け算して、たし合せます。

この得点が高い案が、より目標を満足しているということが言えます。しかし、これで決定というわけではありません。なぜなら、この段階では、まだ「各案がどれだけ目標を満足しているか」という、いわばプラス面の評価しかされていないからです。

(4) なにかまずいことはないか?
そこで、今度は、各案のマイナス面の評価を行ってやります。

プラス面の評価は、それぞれの案を相対的に評価することで行ったのですが、マイナス面は「A案はB案よりも、この問題を起こしやすい」ということをいってみても、あまり意味がありません。
マイナス面は、それぞれの案ごとに、個別に「マイナス影響(リスク)の可能性と重大性」を見ていくことによって行います。

このステップでは、今までの過程で出されてきた、大いに気に入った案を、ひとつずつ不合格にするつもりでかからなければなりません。このステップをどこまできびしくやれるかは、多くの場合、経験しだいだそうです。
どんなにプラス側の評価が高い案でも、マイナス影響があまりに大きいと、いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」的な案ということであり、その案を採用することは「大きなかけ」という感じになってしまいます。

このようにして、相対的に評価されたプラス側の得点と、マイナス影響(リスク)をにらみながら、最終的に実施すべき案を決定していくわけです。

4.潜在的問題分析
潜在的問題分析 (PPA; Potential Problem Analysis)」は、将来「どんな不都合が起こりうるか」を考えて、「それに対して、『今』なにができるか」を決めていく思考プロセスです。
すでに紹介した「問題分析」や「決定分析」は、目先の明確な課題を解決するための手法、つまりそのときそのときの出来事に応じて、必要に迫られて用いられるものでした。それに対し、「潜在的問題分析」は、慎重を期して、自ら主体的に行う事前の行動です。

さて、これから「潜在的問題分析」のプロセスをご紹介しますが、このプロセスは、よくチェス・ゲームにたとえられるそうです。ゲームのやり方はすぐに覚えられるけれども、上達するには20年かかるのだとか。それくらい経験などが要求される分野なのですね、将来予測は。

つぎの四つが、潜在的問題分析の基本的プロセスです。
(1) いつまでに、なにを、どの程度、どうしたいのか?
(2) 将来リスクとしてなにが考えられるか?
(3) そのリスクの発生を防ぐにはどうするか?
(4) そのリスクが発生してしまったとき、影響を最小限度にするためにはどうしたらよいか?

(1) いつまでに、なにを、どの程度、どうしたいのか?
まずは、例によって潜在的な問題を分析したいプロジェクト、業務、催し物、計画などの達成すべき姿を、「いつまでに」、「なにを」、「どの程度」、「どうしたいのか」という四つの観点で明確に記述してみます。

目的もなく将来リスクを心配しても、まったく無駄なことなので、まず明確な目的記述を行いましょうということです。「達成目標の明確化と決意表明」です。
将来の姿、とくに時系列に関連する項目は、非常に認識が困難なので、簡単な実施計画表などを作成すると、よりわかりやすいでしょう。

(2) 将来リスクとしてなにが考えられるか?
このステップでは、最初に問題が起こりそうな「危険な領域」を認識することからはじめます。ここには、経験と常識などが必要です。

「今まで一度もやったことのないところ」や「ある活動に関する責任、あるいは権限が重複しているところ」、「きびしいデッドライン(期限)」、「責任者が現場から遠く離れて管理しなければならない場面」などなどが危険領域になる可能性の高いところです。
次に、それらの危険な領域の中で、起こりそうな個々のことがら(具体的な潜在的問題)について、「なにが」、「どこで」、「いつ」、「どの程度」起こりそうかという明細化を行います。

たとえば、なにかの行事を行うのに際して、危険領域として「施設−多数の出席者を扱うには不十分」という項目があげられている場合、具体的な潜在的問題としては「自動車や観光バスの駐車スペースがせまいので、大変な交通渋滞と混雑が生じる」とか、「くず入れが足りず、大量のゴミが散乱する」などがあげられます。

そして、最後に、これらの潜在的問題それぞれに対して、それらが発生する可能性と、発生した場合の重大性について、それぞれ3段階(小・中・大)から10段階(1〜10)程度の評価を行っていきます。
このうち、10段階評価でいうと、発生する可能性が3以上で、かつ、発生した場合の重大性が6以上程度のものを、検討しておくべきリスクと言えるでしょう。

(3) そのリスクの発生を防ぐにはどうするか?
検討しておくべきリスクに対して、「予防対策(事前対策)」と「緊急時用対策(事後対策)」を決めていきます。

部分的、あるいは全面的に問題の原因を取り除いてしまうのが「予防対策」です。一方、防ぎきれない問題のインパクトを和らげるのが「緊急時用対策」です。もちろん、「予防対策」をとって、問題を除去してしまったほうが効率的なのはいうまでもありません。
潜在的問題を発生する可能性と、発生した場合の重大性に分けて評価しましたが、「予防対策」は、このうちの発生する可能性をさげるための対策です。

この対策を立てるためには、問題の原因を考えて、その原因を除去していくことが必要です。この対策は、リスクの除去だけではなく将来の機会の創造につながることも多いそうです。
たとえば、「販売網が弱くて、予定のシェアが確保できない」という問題に対し、「販売網を強化する」という事前対策を立てると、それは、今回のリスクへの対策となるばかりでなく、さらに新たな商売の機会を生んでくれます。
リスクと機会は表裏一体なのですね。

(4) そのリスクが発生してしまったとき、影響を最小限度にするためにはどうしたらよいか?
予防対策によって、発生する可能性を0にしてしまえない限り、そのリスクが発生してしまう可能性があります。その場合の重大性をどれだけ押え込むか、というのが「緊急時用対策(事後対策)」なのです。

火災でいうと、「寝タバコ禁止」などが事前対策で、「消火器の設置」などが事後対策になります。
さらに事後対策で重要なのは、「だれが、どの時点で緊急時用対策実施の発令をするか」という「トリガー情報」を決めておくということです。

最後に言っておかなければならないのは、予想外のできごとを完璧に防ぐのは不可能だということです。「潜在的問題分析」の目的は、将来を保証することではありません。その目的は、将来の不確実性を管理可能なレベルにして、「将来を“できるだけ”管理する」ということです。

5.状況把握(状況分析)
今までに、「問題分析」、「決定分析」、「潜在的問題分析」という、三つの思考プロセスを見てきました。これらは、それぞれ、その分析を行なうためのお題目(分析テーマ)をきちんと決めて、それをにらみながら、分析を行なっていくものでした。
「問題分析」では「〜に発生した〜の原因を究明する」、「決定分析」では「〜のために〜を決定する」、「潜在的問題分析」では「〜を〜までに〜程度〜する」というお題目でした。

ところが、現実の問題となると、このように簡潔な文書となるような問題は非常に少なく、「いったいなにをすればいいんだろう」、「どこから手をつければいいんだろう」といったようなものばかりです。さまざまな問題が、いろいろと、複雑に錯綜しあいながら現在の状況にいたっているからです。

そこで、まずこの複雑な状況をきちんと把握することが重要になってきます。もつれた糸を、少しほぐしてやるわけです。それが、「状況把握 (SA; Situation Appraisal)」です。 Appraisal(アプレイザル)という単語は、あまり聞いたことがありませんが、「全体を見て評価する」というような意味だそうです。
状況把握の結果として、「複雑そうに見えたけど、とっかかりはまず〜に発生した〜の原因を究明すればいいんだ」とか、「そうか〜のために〜を決定することからはじめていけばいいんだ」ということがはっきりしてくればしめたものです。

状況把握という作業の結果は「やるべき課題のリスト」という形になります。
状況把握は、つぎの四つのプロセスで行います。
(1) 気になっていることはなにか?
(2) 具体的にどんなことが起きているのか?
(3) では、なにをすればいいか?
(4) どれを重点的にやるか?

(1) 気になっていることはなにか?
さて、状況把握においても、まずはお題目の設定を行ないます。ただし、この段階では、ざっくりと「〜における課題はなにか」といった程度のものでかまいません。

また、状況把握を行なう立場も明確にしておく必要があります。どういう立場で状況把握を行うかによって、「やるべき課題」というのが異なってくるためです。
このお題目の設定によって、「問題の存在範囲」をある程度限定し、立場を明らかにすることによって、「問題を見る視点」を限定してやるわけです。この「範囲」と「視点」を明確化してやるだけでも、もやもやとしていた問題がすこしすっきりしてきませんか?

この「範囲」と「視点」をにらみながら、気になっていることを列挙してみます。
ここは、日本人得意の、大見出しの設定程度でかまいません。「人事面が気になるよね」、「日程がきびしいんじゃないの」というようなものです。

これらの大見出しが列挙できれば、ここでまず第1回目の優先順位づけをやってやります。なにしろKT法は、「的外れの深堀りをさけよう」というものなので、優先順序というのが大切です。
お題目と、列挙された大見出しとをながめながら、なにが一番重要なんだろうと考えます。こうして、3段階評価なり、5段階評価なりをしてやって、上位のものから時間(などの資源)の許す限りつぶしていこうというわけです。

(2) 具体的にどんなことが起きているのか?
優先順位の高い大見出しについて、「具体的にどんなことが起こってるの?」という質問をしていきます。

「日程がきびしいんじゃないの」という大見出しに対しては、「12月末が納期なのに、現在、工程の1/2しか進んでいない」などという「事実」ベースの内容をあげていきます。「○○がわかっていない」、「○○の事実がつかめていない」などというのも、それ自体が「事実」です。

(3) では、なにをすればいいか?
この段階までくると、ぼんやりと「問題だなぁ」と思っていたことが、どういう種類の問題なのか(大見出し)、それはどんなことがあるから問題なのか(具体的な事実)が明らかになっていきます。もつれた糸の中の、「おおもの」をある程度みきわめた状況にあるわけです。

「では、なにをすればいいのか」ということを、これまでの経験や知識を活かしながら決めていきます。「なにをすればいいか」というのは、ひとつとは限らないでしょう。複数の課題が考えられます。
このとき、「なにをすればいいのか」を、次の六つの記述のどれかで表していくように心がけるとすっきりとするでしょう。
あ) 〜に発生した〜の原因を究明する。(問題分析)
い) 〜のために〜を決定する。(決定分析)
う) 〜を〜までに〜程度〜する。(潜在的問題分析)
え) 〜の状況を把握する。(状況把握)
お) 〜を調査する。
か) 〜を実施する。

課題をあげたあとで、その課題を解決することによって、「洗い出されている事実」が解消でき、大見出しであげた「気になる点」がなくなるのかどうかは、きちんと確認しておく必要があります。

(4) どれを重点的にやるか?
ここでは、「なにをすればいいのか」であげられた、複数の課題の中から、どれを優先的にやっていけばいいのかを決めます。

優先順位は、次の三つの次元に基づいて行います。
その課題が与える影響は、現在どの程度「重大」か。
その課題は「時間的緊急性」があるか。
その課題はほっておくと「拡大する可能性」があるか。
各課題について、それぞれの次元で、3段階程度の(相対)評価をしてやり、どの課題から片づけていくべきかを決めていくわけです。

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【所感】
企業の業務の場合、たいていのものは『定められた資源(人・物・金)の枠内』で、いかに効率のよい結果をだすか、ということにかかってきます。
したがって、医療の現場のように『すべての事実を見落とすことなく』という状況であれば、KT法はあまり向かないのかもしれません。

「身のまわりに、問題(のように感じる)ことはたくさんあるのだけど、資源は限られている。私はいったい、なにから手をつけたらいいのだろうか」というような状況で、はじめてKT法が役に立つのでしょうね。この限られた資源をいかに有効に使うか、というところがKT法の本質だろうと思っています。

おそらく、企業のリーダーに要求されるのは、気になることが複数あった場合に、「(資源的な制約のために)現時点ではどれを切り捨てるか」という、『うまい切り捨てができるかどうかの能力』だろうと思います。

このときに、声の大きい人の言いなりになったり、いままでの慣習にとらわれたりすることなく、理性的な判断をするためにKT法(ラショナル・プロセス)が開発されたのではないでしょうか。

お医者さんの場合は、そうはいきませんよね。「Aさんは胸が痛いといっている」、「Bさんは以前手術した傷口が痛むといっている」、「Cさんは頭が痛いらしい」、なんて関心事(気になっていること)が列挙されて、「じゃぁ、Bさんを優先的にみましょう」なんてわけにはいかないですもんね。ただ救急医療などでは優先順位トリアージが一般的です。cf.START法のフローチャートは単純で興味深いですよ。

企業の場合には、「A製品の製造工程に人が足りなくなってきている」、「B製品の売行きが落ちている」、「C製品にユーザからクレームが付いた」、という列挙に対して、「ではまずはC製品のクレームの問題から処理しよう」というふうに決めやすいのですが。

もちろん、A製品やB製品についても、「今はC製品を優先する」というだけで、決して忘れていいわけではありません。重要度に応じて、「人に委譲」したり、「後回し」にしたりする、ということです。

要するに、資源の制約などの問題から「大の虫をいかして、小の虫を殺す」政策をとるか、失敗が許されないから「大の虫も、小の虫もいかすか」という政策的な問題なのではないでしょうか。

KT法は、明らかに前者だと思います。この「大の虫」、「小の虫」を合理的に分離しましょう、というのが大前提のようです。

基本的には、KT法は「底あげの手法」ではないかと思っています。企業の中に、いろいろな仕事に的確な優先順序をつけて、てきぱきと仕事をこなしていける人材が多ければ、とりたててKT法を習うこともない。

ところが、実際はそうでない人(放っておくと後で面倒なことを言ってくる人の言いなりになったり、上司の意見には絶対服従というタイプの人などです。私自身、耳が痛い問題です(^^;。)も大勢います。そのあたりを対象として、KT法があるのではないでしょうか。